教員インタビュー:梶 茂樹
*インタビュアー:I
I:今日は、色々お聞きしていきたいと思います。よろしくお願いします。さっそくですが、梶さんが、これまでやってきた研究内容について聞かせてください。
梶:僕が専門的にやっているは、言語学というものです。そのなかでも主として記述言語学です。これは、現地へ行って、知らない言語を一から調べるものです。つまり、「頭」はなんて言うの?ということろから始めて、その言語の文法全体を調べて語彙集や民話などのテキストづくりを行います。主にアフリカの言語を対象に調査をしてきました。
I:アフリカで研究を始めたきっかけは何だったのでしょうか?
梶:それは、大学院生の時、先生が連れて行ってくださったからです。持つべきは、いい先生ですね。それまで研究が行われていない場所でみんなで調査をやりましょうってことになって、そこで僕は、言語担当ということになったわけ。
I:それが、きっかけで今もアフリカで調査を続けられているんですね。では、アフリカでの主な調査地はどこですか?
梶:アフリカでの初めての調査は、コンゴ民主共和国(旧ザイール)東部に話されるテンボ語についてでしたが、これは1976年から15年間毎年行いました。91年も行く予定にしていたら、ちょうど首都のキンシャサをはじめ各地で暴動が起こり行けなくなりました。その後は、タンザニア、マリ、セネガルなどで調査をしてきました。おかげで、今では“タルエスサラーム(タンザニア)からダカール(セネガル)まで”を標榜しています。最近は、ウガンダ西部で、アンコ-レ語やト-ロ語の調査をしています。そう、今までに、アフリカでは20くらいの言語を調査したかな。アジアやヨーロッパの言語にも興味を持っていて、これらも20くらいは習ったり自分で調査をしたりしました。と言うと、言語調査ばっかりやっているように思われるかもしれませんが、そこに住む人々の文化にも大いに興味を持っています。例えば、森の中では、視覚があまり効かないから、太鼓を使ってメッセージを伝える人たちがいます。知っていますか?面白いと思うことは、何でも研究の対象にしていますよ。
I:トーキングドラムっていうやつですよね?ちなみに、梶さんは、太鼓を使ってメッセージを伝えたり、聞き取ったりすることはできるんですか?
梶:簡単なものならできますよ。例えば、「今からそちらの村に誰それが行くからよろしくね」とか。あれは、モールス信号のようなものではなくて、彼らの言語の音の高低を利用しているんですよ。
I:へ~すごいですね。
I:梶さんは、学生時代はどのようなことを研究されていましたか?
梶:卒業論文、修士論文では、ヨーロッパの言語を扱いました。アジアの言語についても調査したことがあるし、僕の興味は初めからアフリカというわけじゃなかった。でも、縁あって、博士課程で、アフリカで調査を始めました。でも、僕は、日本人にとって、アフリカ研究というのは、ある意味、最先端なんじゃないかと思っているんだ。
I:ある意味で最先端というのは?
梶:ヨーロッパのことを研究している人は、ヨーロッパのことは詳しいけど、アジアやアフリカのことは、ほとんど知らないことが多いのね。そして、アジア地域で研究している人は、ヨーロッパのことは多少知っているけど、アフリカについてはほとんど何も知らない。じゃあ、アフリカを研究している人は?と言うと、ヨーロッパのこともアジアのことも視野に入れながら研究している場合が多いんだ。紆余曲折を経てアフリカに至っているからね。学生の君らも、アフリカばかりに目を向けないで、アジアやヨーロッパのことも視野に入れることが必要かもしれないよ。他の場所にも目を向けないと、アフリカの特色なんかもわからないかもしれないしね。
I:学生生活の方はどんなものでしたか?
梶:僕は大学に入ったのが1969年ということもあって、例の東大の入試がなかった年でね、学生時代はよく遊んでいたな。徹マンをやったりして。当時、大学も荒れていて、授業もあまりなかったしね。あと、若い頃って、外国に行ってみたいっていう気持ちあるでしょう。僕は、外国に行ってみたくて大学4回生の時に、横浜から船に乗って、ロシア、ヨーロッパ、北アフリカ、中近東、インドを旅しました。それで、1年留年しちゃったけど。
大学2回生から3回生に行く時に、専攻を決めなくちゃいけなかったのだけれど、選択肢は、人類学というのはなかったので、それに代わるものとして、宗教学、地理学、 社会学などいくつかあったんだけど、前から興味を持っていた言語学を選びました。 世界中どこへ行っても、言語はあるからね。研究対象が尽きないんだよ。(笑)
I:これからのアフリカ地域研究はどのように進めていくべきだと思いますか?
梶:僕は、まず自分のディシプリンをしっかり持って、研究をすることが必要だと思うね。社会学、地理学、言語学、人類学、農学、動物保護など、何でもいいんだけど、それプラス地域研究というスタイル。この両方がうまくかみ合わないといけない。地域研究だけだと、何だか使いっぱしりみたいになっちゃうしね。
I:ここの大学院の魅力、特色はなんでしょう?
梶:色々な研究をしている人がいるから、すごく刺激になるよね。あと、院生にしても教員にしても和気あいあいとしていて雰囲気がいいよね。研究室から大文字山も見えるし(笑)。
I:梶さんは、どんな学生を期待していますか?
梶:自分で物事を考えることができる人。研究に関するデータを自ら集めて、それで考えることができる人。例えば、授業でレポートを課すでしょ?そうすると、どっかの本やインターネットから文章を引っ張ってきて、うまく辻褄を合わせようとする。でも、自分の言葉で書いてないものって、どうしてもすぐわかっちゃうんだよね。それに読んでいても面白くないし。
I:梶さんが、これまでに影響を受けた本はありますか?
梶:座右の書というわけではないのだけれど、学問というものを真剣に考えるようになったのは、フェルディナン・ド・ソシュール著の『一般言語学講義』(岩波書店、1972年)を読んだことが大きかったかな。研究対象というのは、そこにあるのではなくて、学問自体がつくり出していくと書いてあるんだね。日本語訳も出ているけど、序論の部分だけでもフランス語で読むとすごくためになると思うよ。
高校時代に読んだものでは、梅棹忠夫著『文明の生態史観』(中央公論社、1967年)にも興味をかき立てられたね。漫画だったら、白土三平の『忍者武芸帳』(小学館)なんか好きだなー。そうそう、学生にひとつ言っておきたいのは、外国語の論文や本を日本語訳で読むと、スーッと読めるぶんすぐに頭から出て行ってしまうから、たとえ日本語訳が出ていても、日本語を参照しつつでいいから外国語で読んだほうがいいよ。丁寧に読むことができるからね。
I:ところで、趣味は何かありますか?
梶:たくさんあるけど、実現していないのが多いですね。
I:例えばどんなものでしょう?
梶:まず、オジさんの野球チームを作りたい!オジさんは、型から入らないといけないから、上から下までピチーッとユニフォームで決めてね。背番号は、年齢マイナス30かな。例えば45歳だったら背番号15という風に。今の子どもは、最初からユニフォームを着てやるでしょ?そんなのを見ると羨ましくってね。次にやってみたいのは、バンドだな。僕は、高校時代ギターをやっていたしね。ところで、君はそのバンドでボーカルやってみる気ない?
I:いやいや。私は、遠慮しときます。(笑)
梶:そうかー。あと、バーで、ピアノの弾き語りなんてこともしてみたいな。
I:それは、梶さんのイメージにピッタリですね。梶さんにそんな野望(?)があるとは知りませんでした。ぜひ挑戦してください。
梶:あと、僕は釣りが好きだから、海の近くに別荘でも買って、ボートも買って、海に乗り出していきたいな。
I:お話聞いていると、梶さんって、ものすごいお金持ちなのかなーって気がしてくるんですけど…。
梶:いやいや、夢だから。でも、こんなことばっかり言っているから、嫁さんに怒られちゃうのかな。(笑)
I:では、最後にここの大学院を目指す受験生に一言お願いします。
梶:アフリカには、2000もの言語が話されています。非常に多いし、また構造も難しいものが多い。言語ってのは、人間が作り出した最高、最大の知的産物でしょ。だから、その研究ってのは、それがわかるかどうか、結局、自分の頭との闘いなんだよね。だからキャッチフレーズは、「君の頭脳はその知的格闘に耐えうるか?」とでもしておこうかな。
アフリカ人のことを、バカだとか、劣っているとか思っている人がいるかもしれないけど、それは全くの間違いです。彼らは、とても賢くて知的な人々なんだ。それを言語でも文化でも、研究を通して表現できたら、アフリカ研究は成功かな。
I:今日は、色々お話聞かせていただきありがとうございました。