教員インタビュー:山越 言
*インタビュアー:I
I:山越さんは、院生時代、チンパンジーの生態について研究されていたそうですが、現在、地域研究を行っている経緯について教えてください。
山越:私が研究地にしているギニア南東部のボッソウ村では、1976年から当時京都大学霊長類研究所の杉山幸丸さんが、チンパンジーの行動や生態についての研究を始めて以来、現在まで継続して数多くの研究が行われてきました。私は1992年、修士の一年のとき初めてギニアに出かけ、野生チンパンジーの採食生態について研究していました。具体的には、朝からチンパンジーを追いかけて、彼らが食べたものを一つ一つ記録していくという、かなり地味な作業をしていました。
I:朝から晩まで、なんだか退屈しそうな気がしますが…。
山越:それが、チンパンジーはやはりヒトに近いということもあり、どこかで毎日変わったことをしてくれたりするので、長いときは一年間とおして調査を続けたことがありますが、退屈したことはなかったですね。
そうやって苦労してデータを取っていたのですが、調査地のボッソウの森は、村の裏山といった感じの小さな森で、当然畑があったりいろいろ環境に人為的攪乱があるので、霊長類学の方では、得たデータに対して、「自然な群れではない」とか、「人為的攪乱の影響が無視できない」といった批判を受けることが多かったんです。なんだかやりにくいなあ、と思っていたんですが、よく考えてみると、村の裏山にチンパンジーが住んでいるって、これはかなりすごいことなのではないかと思い始めました。たとえば、日本のどこかの鎮守の森にツキノワグマが住んでいる村があったら、それってすごいことだと思いません?
I: ああ、そういわれるとそうかも…。
山越:それで、これは例えば広い意味での野生動物と人の暮らしの関係を問う、おもしろい研究ができるな、と思ったわけです。ボッソウ村になぜ森が残されているのか、なぜそこにチンパンジーがいるのか、というような問いを、一つ一つ掘り下げて見ようと思っています。
I:なるほどー。で、なんでボッソウの森にチンパンジーがいるんですか?
山越:まあ、それを今研究しているわけですが…。ボッソウ村の人たちの中には、チンパンジーは自分たちのご先祖様の生まれ変わりのようなもだから、狩猟をしたりしてはいけないという考えがあります。また、クランごとにトーテムとなる動物が決まっていて、そのトーテム動物は食べないのですが、ボッソウ村をはじめに作ったとされるクランがチンパンジーをトーテムとして掲げているということとか、そのほかいろいろな理由が複雑に絡まって、結果としてチンパンジーが保護されているということになると思います。そういういろんな文化的な要素を一つ一つ明らかにしていきたいと思っています。
I:もともとアフリカに興味があったんですか?
山越:いや、それは全然ありませんでした。学生の頃からいろいろ興味や関心が変わって、流れ流れて行き着いたのがアフリカ、という感じでしょうか。京大の理学部生には多いんですが、元々は物理志望だったんですよ。
I:学生時代については?
山越:ずっと体育会の陸上部に入り浸っていました。長距離で、マラソンやったり。それで体力で何とかなりそうなフィールドワークに魅力を感じたということはあります。
I:えー、なんか不純な動機ですね。まあいいか。では、ここの大学院の院生として、どんな人を期待していますか?
山越:そういう人ばかりでも困りますが、「破天荒」なひとが出てきてくれると楽しいですね。型破りで、個性的な研究がいろいろ出てきてほしい。教授の研究なんかつまらないから、あてにしないで自分でおもしろいことをやる、とかね。あんまり、スーパースターを期待しているわけではありませんが。
I:うーん、でも学生としては、プレッシャー大ですね。ここでは教員と院生の間の壁が色々な意味で少ないことは確かだし、ここの大学院の魅力の一つだと思います。
山越さんの院生時代は、そんな感じだったんですか?
山越:私自身は、そんなタイプじゃなかったですけどね。でもけっこう生存競争が激しい分野で育ったので、人をあてにしないで自立してやりたい、という雰囲気はあったと思います。
I:ちなみに尊敬する研究者はいますか?
山越:だれかを尊敬してしまうと終わりだと思うので、作らないようにしています。
I: 最後に受験生に一言メッセージをお願いします。
山越:実証的に何かをつかもう、と考える人にとってはいい条件がそろっていると思います。とにかくアフリカに行って、自分の目で見てみたい、という意欲にあふれた人を歓迎します。
I:ありがとうございました。