教員インタビュー:伊谷 樹一
*インタビュアー:T
現在の研究内容と調査地
T:本日はお忙しいところ時間を割いて頂きありがとうございます。では早速、宜しくお願いします。まず伊谷さんの現在の研究内容と調査地から聞かせていただけますか?
伊谷:タンザニア南部のミオンボ林帯において、生態環境と人間社会との関わりについて研究しています。とくに、在来農業が環境をどのように利用、保全し、またそれがどのような社会的要因によって維持されてきたのかを調べることで、現代アフリカにおける人と林の共存のあり方を模索しています。
T:では、アフリカで在来農業を研究するようになったきっかけは何でしたか?
伊谷:子供の頃は「探検」にあこがれていて、多くの探検記を読んでいましたが、たまたまアフリカを身近に感じられる家庭環境だったので、アフリカの探検記には特に興味を持っていました。はじめてアフリカに行ったとき、自然を熟知し、それに強く依存して生きる人びとに触れるなかで、アフリカの在来性がもつ力に惹かれていきました。
T:そのアフリカに惹きつけられた本というのは?
伊谷:先ほど申しましたように、アフリカへの興味を膨らませてくれたのはいろいろな探検記ですが、『ゴリラとピグミーの森』(岩波新書1961年、伊谷純一郎著)とか、『農業起源をたずねる旅 ニジェールからナイルへ』(講談社1993年、中尾佐助著)といった学術書は、フィールドワークを志向するきっかけだったように思います。
T:『ニジェールからナイルへ』知りませんでした。是非読んでみます。
これまでの経歴
T:初めてアフリカに行かれた時とのお話を伺えますか?
伊谷:はじめてアフリカの地を踏んだのは1985年の10月です。当時はまだタンザニアにおける農業研究がそれほど盛んではなく、理学部の教授をしておられた西田利貞先生にお願いしてチンパンジー調査隊に名前を入れてもらいました。その頃、大学院でアフリカ原産のササゲというマメ科作物を研究していたこともあって、原産地におけるササゲ栽培の実態とその野生種の利用に関する調査でした。調査といっても、タンガニイカ湖東岸の山村をひたすら訪ね回るだけでしたが、その旅が今でももっとも鮮明な記憶として残っています。
T:1985年、私が2、3歳の頃です…そのときのご様子は?
伊谷:長年の夢がかなって、ナイロビ空港に降り立ったときは感動しました。車窓に映るアカシア・サバンナや熱帯果樹を見てアフリカに来たことを実感し、意味もなくパパイヤやマンゴーの写真をバチバチ撮ったのを覚えています。当時のタンザニア経済はどん底の状態で、ダルエスサラーム市内には路上生活者があふれ、商店や市場には物がまったくなく、煙草を探して一日中街をほっつき歩いていました。それでも、貧しさを感じなかったのは、人びとが底抜けに明るく、いきいきとしていたからなのでしょう。
T:パパイヤやマンゴーって可愛いですよね(笑)。それから現在までの経歴を簡単に教えて頂けますか?
伊谷:その頃の私は、大学院でマメ科作物の水分生理に関する研究をしていましたが、最初のタンザニア旅行の後、なかなかアフリカに行く機会に恵まれず、結局、水分生理で博士号を取得して、1990年に宇都宮大学農学部に就職しました。就職した後は、タンザニアやザンビアで調査をおこない、JICAの専門家としてタンザニア・ソコイネ農業大学に赴任したこともあります。1998年にASAFASに転勤して現在に至っています。
T:農学で実験をしていらっしゃったのですね。作物生理学者とは知りませんでした!!
伊谷:ASAFASに来てから作物生理学とは縁遠くなりましたが、そこで学んだことは、アフリカ農業の研究に一つの視点を与えてくれているのだと思います。何かの専門的な知識は、地域を捉えるときの切り口として役立つでしょうし、研究に個性をつくりだしてくれます。ただ、アマチュアだからこそできる自由な発想や多元的な視野が、専門化することで失われることもあります。地域研究にとってディシプリンは諸刃の剣のようなもので、この分野の研究者にはプロフェッショナルでありながらアマチュアであり続けることが求められるのでしょうね。
研究科の魅力と特色
T:はい、すごくぐっときました…。それでは大学院進学を目指している受験生に向けて、アフリカ地域研究専攻の特色と魅力について伊谷さんのご意見を聞かせて頂けますか?
伊谷:アフリカでフィールドワークができることでしょう。
T:では、ここ(アフリカ地域研究専攻)の学生に必要なものとはなんでしょう?
伊谷:よく分かりませんが、実行力とか自律性とかいったものではないでしょうか?
T:最後に、これからアフリカに行く人へ向けて、何か一言お願いします。
伊谷:「古き良き時代」のアフリカ研究者をうらやましく思った経験が私にもありますが、そう思って過ごした時代も、今となっては「古き良き時代」となっています。それぞれの時代には、その時代にしかできない研究があります。まずはフィールドに行って、体のすべてを使って「現在」を感じ取ることが大切で、そうすれば、誰もが「古き良き時代」を生きたことになるのでしょう。
T:本日は、貴重なお話をありがとうございます。